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学生・関係者の活動 詳細

書籍編訳・カバーデザイン「ハプスブルク軍政国境の社会史」


 

越村 勲
ハイブリッド科目 教授

他、1名
高田裕貴(グラフィックデザイン専攻領域/4年生)


本学・越村勲教授が、ドイツ語の大著の研究書を編訳しました。
また、カバーデザインはグラフィックデザイン専攻領域・福田ゼミでコンペを行い、4年生の高田裕貴さんの作品が選ばれました。

 16世紀オスマン・トルコの、バルカンやハンガリー・オーストリアへの侵攻が露わになったとき、ハプスブルク(オーストリア)帝国は、アドリア海の一部からカルパチア山脈まで続く長大な防衛線を築いた。これがハプスブルク軍政国境であり、中でも「もっとも古く、整備され、堅固な部分」がクロアチア軍政国境だった。本書も、そのクロアチアが主な舞台になっている。ただクロアチァといっても、当時ダルマティアの海岸部は、その大半がヴェネツィアの支配下にあった。したがってクロアチア軍政国境とは、ダルマティアの山岳部といわゆる狭義のクロアチアを合わせた部分、そしてハンガリーに近いスラヴォニア地域とから成っている。
 本書の原題は、Freier Bauer und Soldat~Die Militarisierung der agrarischen Gesellschaft in der kroatisch-slawonischen Militargrenze(1535-1881)つまり『自由農民と兵士~クロアチア・スラヴォニア軍政国境における農業社会の軍事化1535-1881年』である。本書の意図を理解するには、研究史上の二つの大きな問題を想起する必要がある。タイトルにある農民・兵士が、はたして自由な存在だったかどうかというのが一つ。次に軍事・政治制度を描くか、社会・経済状態を描くかというのが二つ目である。
 第一の問題についてカーザーは、二段階論で説明する。つまり、1754年以降クロアチア・スラヴォニア軍政国境(以下クロアチア軍政国境)が対オスマンの防衛線からハプスブルク軍事化の拠点へと位置付けを変えられ、多様だった社会も画一化され、自由だった農民・兵士は国家・軍に従属するようになったとみる。本書が第一部の「初期の軍政国境社会」と第二部の「軍事化された社会」から成っているのもそのためである。
 第二の問題に関しては、従来の研究の多くが軍事・政治制度に重きを置いていたのに反して、本書は、農民が実際どのような民族集団からなり、何を信仰し、どのような家族、村を営み、生活経済を営んだのかを、その中で兵士が自分たちに与えられた義務をどうはたしたのかを再構成している。本書に図や表、統計が多いのはそのためである。
 本書の内容をもう少し詳しく見ていこう。第一部の第一章は16世紀のオスマン侵攻がいかに旧来のクロアチア社会を破壊したかを説明している。以下では、オスマン支配を逃れてきた人々が軍役を担う代わりに「自由な土地所有」をえるという共通項で括られる一方、様々要因が混在する社会が順次描かれる。まずは ジュンベラクという地域で、軍政国境制度の成り立っていく様を比較していく。またヴラーフと呼ばれる半遊牧の人々が農民・兵士になっていく様子が詳述される。さらにクロアチア総督の直轄の地域(その他の地域にはオーストリア諸身分が大きく関わる)では農民・兵士の負担が大きい分、身分も自由だったことが示される。リカ地方については豊富な人口統計で、住民間の信仰の違いなども浮き彫りにされている。(とくにこの部分の実証は研究史上評価されている)。そして最後は、スラヴォニア地域で、農民・兵士の自己負担を増やそうとする「近代化」政策がハプスブルクによって試験的に導入されたことが示される。
 第二部では、18世紀半ば(1745-1770)に行われた政策の大転換=近代化と、それが農民・兵士の反抗にあい、その結果妥協的措置がとられていく様子が、軍民の統治制度や、経済状態あるいは税制などの分析を通じて現代によみがえる。(ただこの部分については、軍事・政治制度史に「戻っている」との指摘もある)。終盤では、バルカン特有の大家族制(拡大家族)がこうした政策の変化や、近代化に向けた様々なうごきの中で、いかに分解していくかが丁寧に分析されている。最後に、近代化の過程にあっても、軍政国境では国民統合がいかに行われなかった!かについて説明される。