東京造形大学研究報 27[2026年 3月31日発行] 研究論文掲載
清水哲朗
人間形成科目 非常勤講師
学部「Intercommunication between the diversities of Arts」、大学院「舟越桂先生とともに学ぶプロジェクト」担当教員の 清水哲朗です。新入生の皆さんご入学おめでとうございます。この魅力的な、「創造的な螺旋運動(Creative Spiral=クリエイティヴ・スパイラル_)」の実践のキャンパスで思う存分ご自分の力を発揮していってください。今回『東京造形大学研究報 27』[2026 年3 月 31 日 発行]に私の執筆した「3つのダンス:ミツバチのダンスとサル少女(Liminal ) のダンス そして 『モノもどき(quasi-objets)』 = モノ・ダンスの諸『振動』についての考察」」論が掲載されました。ぜひ読んでみてください。下のURLからお読みになれます。
https://www.zokei.ac.jp/activity/research/
内容は、フランス人現代美術家ピエール・ユイグ(1962年 - )のベネチアでの展示「liminal(両<限>界)」 、やはりフランスの科学哲学、科学人類学者ブリューノ・ラトゥール(1947年 - 2022年)による「アクター・ネットワーク・セオリー(ANT)」、そしてユイグも積極的に表現の主要な要素として取り入れている「ミツバチ(の動き)」を関わらせて論文を書きました。ユイグは、頭部が蜂の巣の彫刻を、野外に設置します。ミツバチたちは、給餌(=餌を求めて)の行動で、あたりの花々を巡ります。そして巣へ戻り、花のありかを知らせるために、巣の中央で一心に「8の字ダンス」を踊ります。そのような、ミツバチの動きと周りの花々、果実、動物、昆虫、そしてそこに吹き渡る風や雨・・・、その場所を形作っていすべてのもの、エコロジカル(生態学的)な関わり合いによって、ユイグの「インスタレーション」は築かれています。また、科学人類学者ラトゥールは、「人間」とモノや自然などの「非-人間」を、「主/客」に「二分」せず「上下関係」を付けず、同等にあるものと捉えます。そして、それらの一つ一つを、絶えず変化し続け、互いに積極的に関わり合い、影響し合う「アクター(結節点)」として捉えて行きます。そのような、モノ、人間、自然・・・、あらゆるものによって築かれる世界を「アクターネットワーク(結節点群)」と捉えています。巣の中で、常に動き回り、ふれあい、身体丸ごとで花のありかを仲間に知らせる「ミツバチ」と、そのように「8の字ダンス」を踊るミツバチたちによって築かれる蜂の巣は、「アクター・ネットワーク」のあり方にとてもよく似ていますね。
ピエール・ユイグの「Liminal(両<限>界)」の考え方も、排除せず、抱擁するように包み込む
「インクルーシヴ(包摂的)」な関わり合い様相をよく示しています。「Liminal(両<限>界)」の考え方で、ユイグの作品で使われるAIは、ギャラリー内に放たれたハエの見るものと人間の脳の機能を組み合わせ、独特な「ゾンビ」のようなポートレイトを観客の眼前に出現させて行きます。その像はすごい迫力ですね。でもそれは、戦争と気候変動とパンデミックに苦しむ21世紀の私たちと世界の肖像を非常に的確に表し出してもいます。そして、そこでサバイバルしてゆく方途とそれを可能にする創造的力の産み出し方を、巧みに示し出しているように思います。
ラトゥールの師匠格、哲学者のミシェル・セール(1930年 - 2019年)は、今回の論文で述べた「モノもどき(quasi-objets、通常「準モノ」などと訳されたりしますが)」に関して、次のように言っています。「私はあなたの『象徴(σύμβολο)』でありたい」と。「私」と「あなた」を「上下」のように分けず、等しくあるものとして、互いに尊重し合う関わりを表すものです。これほどまでに、謙虚で、柔軟な他者への関わり合い方もないでしょう。そのように、互いに「象徴=ギリシャ語のσύμβολο=シンボル」となり得るとき、そのように事故に閉じずに、「他者的」生き得る時、人もモノも、それぞれが互いにそれぞれの個性と属性を引き出し、輝かせる関わり合いもつことができるようになるのではないでしょうか。そんな、個々が盛んに関わりあう「ネットワーク」、「ティームワーク」としての「創造的な螺旋運動」を、表現活動、造形活動を、この学びの場から皆で作り出して行きたいですね。論文ぜひ読んでください! 読んで、皆でいろいろと話し合ってみましょう。ヨロシク!
2026年4月2日
清水哲朗