小林 良一《指触》Ryoichi Kobayashi ”Finger Touch”

小林 良一
絵画専攻領域 特任教授
「指触」
一日の制作は画面に触れることから始まる。
絵具がのり始めた制作過程だけでなく、キャンバスを張った直後の状態から、その画布の弾力や織目などを指先や手のひらで確認する。触りながら、絵具をのせるための助走を始める。後で振り返れば、希望の時間であり、気持ちはフラットである。
「指触乾燥」―――油絵を始めた頃、指先に絵具が付かなければ、その内部まで乾いていなくても絵具を重ねていくことができるという意味で、この言葉を聞いた。塗料全般の世界で使われている言葉だと思うが、この少し化学的なニュアンスを感じさせる響が良かった。何日も経過して乾燥を確かめるまでもない画面でも、先ずは触ることから始まる。
絵具をのせて行く前の儀式のように画面全体を触る。気持ちをフラットな状態にして、また一日の制作の助走つけていくのは、どの段階でも同じなのかもしれない。
この触るということから自己の制作を見直してみた。触るという行為は、その対象がそれほど大きくないことを連想する。しかし大きな作品の場合も同じように指先や手のひらで触っている。触ることに変わりはないか、と考えていて気がついた。大きな画面ではやはり英雄的な行為へと向かって行くのだ。消すという否定的な行為であっても大きなストロークを伴い、描いては消す繰り返しのうちに、啓示を待つといった制作の姿勢。絵画と対峙している身振り。今は少し恥ずかしい気がする。
今回は、触ることの確かさと身近さに重心を置いた制作を試みた。
小林良一
開催期間
2020年7月20日~2020年8月8日
休館日
土・日・祝日
時間
11am - 7pm
入場料
無料
会場
ヒノギャラリー
会場住所
中央区入船2-4-3 マスダビル1F