三つの絵

平丸陽子
絵画専攻 2002年度卒業
他、2名
伊藤ちさと (絵画専攻 2009年卒業)
清水香帆 (女子美術大学大学院 美術研究科修士課程 美術専攻洋画研究領域 修了 2012年)
画友三人組の展覧会企画を伺い、展覧会タイトルを『The Three Graces』(三美展)にしたらと提言したが、美を競うギリシャ神話の『三美神』と思われてもと、『三つの絵』になったようだ。一方、ローマ神話の『三美神』は、「愛」(amor)、「慎み」(castitas)、「美」(pulchritude)を司る神々のことであり、伊藤ちさと、清水香帆、平丸陽子の作品の性質と一致するのではと私は思っている。
伊藤ちさとは控えめで「慎み」深い。自己主張するタイプではない。作品のモチーフは花やレースなどであり、女性性を感じさせる。Doilyという題名が示すように花瓶などを敷く小さなマットなど、身近なレースを拡大し、絵具を盛り上げ強調している。またレースの網目から覗く地に様々な花を散りばめたりと、女性が好むガーデニングを連想させたりもする。レースと花、二つともはかなく、女性らしい、ひそやかな「美」を捉えている。
清水香帆は明晰で大胆、独創的な「美」を追求する。力強い構図と筆法は男性的ですらある。これまでの二分法でジェンダーを論じるのは時代遅れかもしれないが、三人の色使いは赤、ピンク、水色など女性が一般的に好む色彩ではある。清水は風景を見つめ、それを自分が構築する世界に変換する。幾何学的図形、楕円、斜線などの組合せで独特の画像を創る。近作では奥へと進む視線を遮るような巨大な図が立ちはだかり、見者と対峙するような迫力を増し、新鮮でスリリングな遭遇が清水作品の醍醐味になっている。
平丸陽子は「愛」に溢れる暖かい色調の抽象画である。近年はジュート(粗目の麻)に幾重にも重ねるオイルスティックで、言葉や植物などから受ける印象イメージを表現している。画面に乗せる絵具は均一ではなく、時に麻地が見え隠れし、背後の壁の存在をも感じさせる。風通しがよく清々しいのだ。画面を見つめることでイメージが拡がり、優しい「愛」に包まれるような軽やかで幸福な気分になることができる。この三人展は「美」と「優雅」を象徴する『三美神』が宿る展示であると言いたい。
五十嵐 卓(損保ジャパン日本興亜美術館 学芸課長)
開催期間
2016年11月10日~2016年11月21日
休館日
水曜休廊
時間
12:00〜20:00
入場料
無料
会場
HIGURE 17-15 cas
会場住所
荒川区西日暮里3-17-15