前沢知子展『組替え絵画/私たちの作品を見てくださいー鏡の家 60/83,2016-』

前沢 知子
美術I類 1996年度卒業
作品の思考
展示作品の「組替え絵画」シリーズは、「あらゆる事象のコラージュ」です。様々な事象の組み合わせで生じた関係によって顕在化される「違和感」や「揺らぎ」、そして「共鳴」「融合」「対立」などを作品で提示しています。人々が作品に関わること参加すること、作品によって関係性が生じることは、「事象のコラージュ」なのだと私は考えています。
コラージュとはパピエ・コレに始まり切り貼りによる意想外の組み合わせを指しますが、私はコラージュを「型外しと再形成」として捉えています。私が考えるコラージュとしての「型外しと再形成」とは、様々な事象がそれらの背景にあるコンテキストやロジック、概念などの「型を外され」、新たな事象と組み合わせられ、様々な前提や背景を持つ人の視点による意味付けと位置づけによって、「再形成」することを指します。
事象同士が結びつけられた時に、それらがどのような関係性を持つかは、その意味を形成する人々の思考によるものであり、さらにその思考自体を形成するものは、人々の経験・知識・人生などからなる既存の概念や認識です。人が作品を見る時、人が作品に参加する時、人が作品に関わる時、その人自身の持つイメージ/概念/認識/経験と、作品の絵柄/形態とが、その人自身の脳裏の中で、組み合わせられます。さらには、その場の空間/環境/時間/光など、あらゆる事象と作品と鑑賞者とが、鑑賞者の脳裏の中で、その人自身の取捨選択により組み合わせられ、作品として意味付けされます。これが,私が考える「あらゆる事象のコラージュ」です。
「あらゆる事象のコラージュ」として、「組替え絵画」作品シリーズは、場における様々な事象が顕在化された素材を用いて作品を制作し、さらにそれらを環境・地域などの展示空間の持つ場の様々事象を組み合わせて展示空間を構成します。それらが鑑賞者の思考の中で、位置/意味を持つことで、作品として糊付けされます。そしてその糊付けされた作品は,各々の鑑賞者の脳裏のみに存在し,他者には見えることはありません。
『組替え絵画』作品に用いる素材の制作は、ワークショップから始まります。この制作方法により、作品となる綿布には、偶然性、身体性、時間の重層、個性、無名性など様々な事象から成る絵具の痕跡が残ります。これらの事象の痕跡が、作家によって切り取られ、空間と組み合わせられ、展示されます。そして再び鑑賞者の視点により画像が再構成されます。作品の存在により、既存の空間への違和感を生じさせることで、既存の認識への揺らぎを提示しています。
ワークショップは、床一面に敷き詰められた巨大な綿布の上で、参加者が全身で絵具体験(遊び)を行うというものです。天地左右など絵画的制作を意識しえない広さの綿布を床に敷き詰め、その上で不特定多数の参加者が、全身で絵具体験/遊びをし、それらが痕跡とし残されます。今回の展示では、それらの素材から、83枚の木枠作品を制作し、そのうち60枚を空間の各所に、横一列に設置し、飯田市美術博物館(原広司氏+アトリエ・ファイ設計)の、「縦構造」を持つ空間に対して、横構造の作品を展示しました。これらは設置高さや間隔など統一した構造を持ち、空間に対して一つの「尺度/基準/システム」としての視点をもたらします。この基準により、既存の空間への違和感と揺らぎを生じさせ、美術館の縦構造という前提などに気づくことで、鑑賞者自身の既存の認識に気づき、認識への再検証を促しています。
開催期間
2016年5月17日~2016年6月29日
休館日
月曜日
時間
9:30〜17:00
入場料
無料
会場
飯田市美術博物館
会場住所
長野県飯田市追手町2-655-7
関連Webサイト
http://www.iida-museum.org/6586/
https://www.facebook.com/works.of.tomoko.maezawa/