第45期国際瀧冨士美術賞(2024年) 優秀賞受賞
『slough』
第45期国際瀧冨士美術賞において、デザイン学科写真専攻領域4年生の孫 佳奈さんの作品『slough』が、優秀賞を受賞しました。
第45期奨学生には、11月にクレアーレ熱海ゆがわら工房でのステンドグラスおよび陶板レリーフの制作現場見学、制作体験と、授賞式・懇親会が執り行われました。
『slough』
ある日、朝起床したら、不意にシーツがくしゃくしゃになっていることに気が付いた。そこには無意識のうちに自分の痕跡が残されていた。この過ぎ去った時間で無意識下の自分が現れたと思う。そもそもの本来の私はいつ頃から現れ始め、どんな姿をしていたのか、考えが止まらない。
本来の私を探究するために、私はこのプロジェクトを始めた。サイアノタイプを使ったのは、精密に複写できる写真の古典技法だから。
カメラを介さず、最もストレートに表現できる。撮られたのは私自身と同世代の人たちだ。
一人でネガの上に横たわると、最初は意識が鮮明に働いていたが、時間が経つにつれて、無意識の領域に入る。そして、再び意識へと戻る。そうした時間のプロセスが痕跡としてネガに残った。
制作の過程で、研究テーマと表現手法について矛盾もあった。それは、私が出した指令で、ネガの上に横になってもらう。実験終了後、タイマーで起される。このルールも作品を成り立たせるための重要な要素の一つだと考えている。
最後の水洗で、ネガに染みている薬液は一部散失し、被写体の姿が白い痕跡として残る。
また、被写体が当時着ていた衣服も同じ技法で記録することで、社会というコンテクストから切り離れた『個』としての個人が現れ、衣服が被写体のある種現在のありのままの姿であることを見せたい。人間は社会の中で自分のアイデンティティと対面しなければならない、アイデンティティは生まれつきではなく、特定な政治と文化の環境で作られたもので、また、文化の産物だとも言える。
ネガに寝転んで自然の音を聞き、風や温度を感じ、時の流れを知って、意識の有無の切り替えの中で、内面に隠れた自分に触れる優しい揺り籠に入る。(孫 佳奈)
国際瀧冨士美術賞とは
パブリックアートの振興と、そのための人材育成を目的に、将来が嘱望される日本と海外の美術・芸術系の学部を有する大学の学生に奨学金を給付しています。現在、国内13校、海外7カ国12校の計25校が対象で、海外はアジア、米国、欧州にわたっています。
(引用:公益財団法人 日本交通文化協会 https://jptca.org/scholarship/)
『slough』
授賞式の様子 2024年11月19日 於:明治記念館1階『末広』