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室建を支える人々

長谷川章
HASEGAWA Akira

教授
Professor

建築学
Architecture

▼建築学を目指して

私が建築学を目指して学んだのは早稲田大学理工学部建築学科(1974-77)でした。その後 大学院で建築設計を修め、都市計画研究会というサークルで活動をしました。修士論文では近代建築理論についてまとめました。卒業後一級建築士資格を取り、設計は坂倉建築研究所東京事務所で12年間学びました。坂倉準三はル・コルビュジエに学び1937年のパリ万博の日本館を設計した建築家です。こうして公共建築から住宅まで設計に携わりました。その間に3年間ほど休職し、西ドイツ政府給費留学生としてアーヘン工科大学で建築を研究し(1985-1987)、広くヨーロッパの都市生活と歴史空間と現代建築を肌で学ぶ機会を得 ました。東京造形大学へ助教授として就任したのは、留学後に博士論文『北ドイツ表現主義建築の研究』を早稲田大学へ提出し工学博士を授与された1991年でした。環境デザイン研究所を主宰し設計を、慶応義塾大学や早稲田大学で非常勤として建築理念を、造形大学では設計を中心とした建築教育に取り組みました。その後2000年に教授となり、設計と教育と研究の融合した建築学を現在も追求しています。


▼社会の接点としての建築

坂倉建築研究所での設計修行時代には日本住宅公団、日本道路公団、雇用促進事業団を始め、公共建築として港北ニュータウン、多摩ニュータウン、東北自動車道サービスエリア、研修施設などの設計を担当しました。この他に学校や病院やホテルなどの設計を通して社会との接点としての建築のあり方を学びました。特に横浜市から依頼された『横浜人形の家』では商環境デザイン大賞、横浜まちなみ景観賞を授賞するなど高い評価を受けました。
その一方で横浜市都市計画局や所沢市教育委員会と都市や修景に関する共同教育プログラムを造形大学で実施するなど、社会との接点の中で大学教育の可能性も追求しています。


▼人間の感性の表現

留学後に商業施設の設計が増えました。小田急百貨店や東急百貨店のインテリアの設計では、これまでの大規模公共建築とは異なった人間の感性の表現としてのデザインが求められました。それは同時に建築研究と設計教育にも反映されました。店舗設計の中でも『東急百貨店東横店』の照明設計では北米照明学会から特別表彰されました。こうした当時の建築研究は『世紀末の都市と身体』(ブリュッケ)や『身体表象論』(造形大学)としてまとめられ、大学のゼミでも身体論を取り上げました。INAXギャラリー『色彩建築展』図録では現代商業建築に特有の彩色された建築に関する巻頭論文を執筆しました。現在の造形大学の設計課題の多くは身体からの感性を大切にするという視点から考えられています。


▼ドイツで学んだこと

建築学を究める過程でドイツ留学は私の中で重要な位置を占めています。アーヘン工科大学での講義も興味深いものでしたが、それよりもドイツの都市や建築の魅力に圧倒されました。こうした経験はその後『ドイツ表現主義の建築』(鹿島出版会)、『ドイツの歴史と文化』(新潮社)、『表現主義と社会派』(小学館)としてまとめられ出版されました。日本建築学会では大会と支部でドイツ近代建築の研究発表を続けています。
さらにドイツと日本で活躍した建築家ブルーノ・タウトの展覧会をセゾン美術館とワタリウム美術館で開催し講演もしました。またタウトの特別番組のためのお手伝いをNHKやテ レビ東京や放送大学でしてきました。そして神戸大学や日本国際交流基金によりバンクーバーで開催されたドイツ建築に関するシンポジウムで研究成果を発表してきました。こうしたドイツ建築の最近の研究活動は『芸術と民族主義』(ブリュッケ)という形で本にまとめられています。


▼社会への還元と啓蒙

大切なことは大学での成果を社会へと還元することです。設計過程で作られたエスキス模型は『JIA建築模型展』で、ドイツで研究した成果は『レンガと建築展』(INAXギャラリー)や学会発表などで社会に還元されています。また大学の紀要を通して毎年研究成果を発 表することにより情報の発振をしています。それは身体論、都市論、風景論など領域を越えて建築の可能性を追求する場でもあります。最近紀要別冊としてまとめた『時間の中の都市』は都市や建築における空間と時間の関係について論考したものですが、既往の研究領域にとらわれないような自由な発想を試みたものです。

◆建築学って何だろう

建築学とは建築デザインのことだけを学ぶ学問ではありません。建築学はインテリアから都市までの設計やデザインのほかに、人々の生活や文化や歴史の舞台の空間芸術としての建築であり、さらに政治や経済や教育という社会の重要な要素としての建築です。さらに建築は宗教や宇宙や民族や身体など精神、理念、哲学とも密接な関係があります。これらは私にとっては分割できない「建築」という一つのものなのです。さらに言えば設計も教育も研究も遊びも、全ての間には何の境界もありません。あるいは生きていくことそのものが建築を学ぶことと言えるでしょう。是非この未知の建築学の世界を大学で学んでみませんか。

◆大学ではどのように学ぶのだろう

建築とは今まで高校では学んだことのない全く新しい分野でしょう。でも雑誌やTVでいつも話題になっています。上海万博でも独創的な建築が建てられました。でもどうやって自分がデザインしていくのか不安です。こうした疑問は私の学生時代の疑問と同じです。結果からいえば近道はありませんでした。そこで大学では基礎から順番に学べるようにカリキュラムを用意しています。1年生が急に設計しようとしても基礎的なデザイン力がまだないので消化不良となり、持っている能力を出せないことがあります。学生の能力にも個人差があります。少数教育で行われる造形大学の設計の授業では、きめこまやかな個人指導を並行させて、学友と一緒に同じ課題に取り組みながら着実に一歩ずつ前進するように配慮しています。心配する必要はありません。あなたと一緒に学べることを楽しみにしています。

◆学生たちは失敗を重ねて大きくなった

では大学で私が実際に指導してきた設計教育の実際の成果を具体的にご紹介することで、そうした不安や疑問にも答えてみたいと思います。学生は何度も何度も失敗することでデザインを学んでいきます。学び修得するためには失敗をできるだけ多く重ねることが重要です。留学生と共に様々な考え方をぶつけ合い学び合いましょう。

色彩の空間構成としての建築 (2年生、室内建築D)

出来上がった建築の壁にペンキを塗るのがインテリアのデザインではありません。この課題ではモンドリアンというオランダの画家の作品をモチーフにして、3次元の空間に色彩空間を構成するという技術を学びます。色彩は建築から自律した空間を構成しています。

正方形の宇宙へ (3年生建築B)

ここでは正方形に形態を限定し、その形態操作だけで魅力的な空間を構築できるかを学びます。唯一許された正方形組み合わせ方の手法の独創性を追求します。そして最後に個々の学生の全ての課題を積み上げると、そこに集合住宅とも都市とも言えないもう一つの世界が生まれます。予期しない成果もまた建築デザインの面白いところです。

運動する空間としての建築 (2年都市デザインⅠ)

住宅の設計では社会の分析からもアプローチできます。特に現代都市では若者の生活はそれ以前の世代とは全く異なります。学生の分析によると、移動する生活が都市の本質であると結論付けられました。その結果移動する場を中心とした住宅空間が提案されました。

メディアの中の生活空間 (3年都市デザインⅡ)

社会に溢れる女性雑誌は若い女性の生活スタイルを先導しているようです。授業ではその雑誌を徹底分析して読者のライフスタイルを分析しました。ファッション、食事、旅行など全てが雑誌の中から抽出されます。この住宅はファッションの延長として提案されました。
⇒大学公式サイトニュース
日経アーキテクチュアコンペ:佳作入選

見る装置としての建築 (2年都市デザインⅠ)

現代社会では視覚情報が重要です。住む機能としての住宅ではなく、風景を見るための環境装置としての建築を考えてみました。日本庭園での東屋などは庭を見る装置としての建築です。そこで、窓を環境とのインターフェースとして現代住宅を設計したものです。パノラマ状の形態の部屋や、外部へ突出した窓のある建築などが提案されました。

移動に伴う空間の変化の表現の演習 (2年室内建築A)

普段歩いている街の道空間の魅力を再発見するための課題です。これは個性ある表現を求める課題ではなく、空間を抽象化して空間モデルへと還元するデザイン技術を学ぶことに課題の主眼が置かれています。大学の2年生までは空間の表現技術の可能性を修得することが重要であり、3年生からはそれを応用して個性あるデザインに挑戦します。

アニメーションとしての建築 (3年建築A)

建築は動きません。そこで時間や運動の概念を取り入れることをテーマに設計したものがこの住宅です。幾つもの層状の壁を重ねることにより、そこを移動する人にとってはパラパラ漫画をめるくような時間の変化を空間で感じられないか試みたものです。

魅力ある単位空間の集積としての建築 (4年生建築ゼミ)

建築の設計には2種類あります。外観を決定して内部を割り込んでいくものと、単位空間をまず求め、それを連結して全体をつくる場合です。後者では外観に一体感がないので、壁を用いて一体感を与えます。学生からは壁が内部と外部に設ける2つの場合が提案されました。

人々がアイデンティティを形成する劇場としての広場 (4年都市デザインⅡ)

現代社会の広場で重要な役割は個々のアイデンティティを演出する舞台の書き割りのような機能です。舞台セットのような広場は人々に個性ある都市生活者を演じることを促します。こうして劇場のような広場が都市には不可欠なものとして提案されました。

中世ヨーロッパの都市空間の引用 (3年建築A)

設計では様々な魅力的な空間を引用して設計します。研修ツアーなどで体験したヨーロッパの魅力的な都市空間を建築の設計に引用して学生が設計したものです。南イタリアの白い中世の街の袋小路や、広場を囲む修道院のような集合住宅がこうして提案されました。

大地と人間のコミュニケーションとして建築 (4年建築ゼミ)

人工構築物の建築は大地を肯定するか否定するか、態度をはっきり示す必要があります。一つは大地を肯定して大地の延長となるような階段状の建築です。もう一つは大地を否定して大地から遊離して自律した空間を持つ建築が学生から提案されました。

小さな都市としての建築 (4年建築ゼミ)

単一の機能としての住宅のような建築ではなく、複合した機能を持つ建築では空間も単純ではなく多様な空間の集合としての建築となります。もうそれは小さな都市です。こうした複雑な建築の設計は個々の建築の設計ができたあとで4年生になると学びます。

◆世界へ出て学ぼう:都市建築研修ツアー

私の研究室では毎年海外の魅力的な都市や建築を見学して学ぶ海外研修ツアーを企画催行しています。インド、ネパール、メキシコ、モロッコ、イスタンブール、ヴェトナム、中国などにこれまで300名ほどの学生が参加して貴重な体験を積んできました。狭い日本に もいい建築が沢山ありますが、しかし海外にも是非若い時に見て感じて欲しい建築が沢山あります。是非皆さんも私と一緒に世界の都市と建築を訪れてみませんか。

⇒大学公式サイトニュース旅行報告:南インドエジプト南イタリア

◆大学で学んだ成果を発表しよう

大学とは受身で学ぶ場ではありません。特に美術大学では自分でデザインした作品について社会から評価を受けることが重要です。課題で興味深いものを発展させて学生同志でグループ展を開催したり、私の研修旅行で体験した成果を写真展で発表したり、あるいは卒業設計を学外のギャラリーを借りて発表するなどいろいろな可能性があります。さらに学生時代からデザイン設計競技に参加することも貴重な体験です。そうした学外活動を私の授業ばかりでなく大学全体で支援しています。是非これから大学で学ぼうとしている方は、こうした活動にも積極的に参加して大学生活をより充実させましょう。