CSP5 志向と選択 - Creative Spiral Project vol.5 –
鈴木のぞみ 五月女哲平 髙田安規子・政子 樋口明宏
左から
鈴木のぞみ《Mirrors:姉の手鏡》2017年 使われていた鏡に写真乳剤を塗布 撮影:木暮伸也
五月女哲平《White, Black, Colors》2015年 アクリル、キャンバス
髙田安規子・政子《Bloom》2017年 ハンドバッグ、刺繍糸、紙巻ワイヤー、ドイリー 撮影:森政俊
樋口明宏《見立て – 漆》2016年 クワガタの標本、漆、金粉、銀粉、色顔料、蒔絵
「志向と選択」
CSP(Creative Spiral Project)は、東京造形大学美術学科教員が主体となり、東京造形大学卒業の芸術家の発表支援と活動記録の蓄積を通じて、新たな芸術表現の育成と社会還元を行うことを目的としたプロジェクトです。2013年から始まったCSPの第5回展は「CSP5 志向と選択」です。
現代社会は多くのモノやコトに埋もれています。さらに近年、インターネットやスマートフォンの普及によって伝達手段や接触回数が増えたことで、より多くの情報が瞬時に流れるようになり、個と社会の関係やコミュニティにも影響を与えるようになってきました。世界中で同時多発的に発生している多くのデジタル化された情報は、加工と反復を繰り返し、質と量を変えながら社会を流動しています。このような遠隔的で実体感のない情報を、人はどれだけリアリティを持って受容しているのでしょうか。不確かな情報が目の前に押し寄せている現在においては、われわれにとって「選択する」ことがカギとなっているように思います。そして選ぶためには、「志向」つまり精神が物事を目指す根源が重要になってくるのだと考えます。
今回参加する鈴木のぞみ、五月女哲平、髙田安規子・政子、樋口明宏らの作品からは、この情報過多の社会の中で多くの事象や事物と共存した強固なリアリティが感じ取れます。彼らの作品に内存する「絵画」や「彫刻」は、作家が思考を表すための手段の一つではなく、彼らの個としての価値観、環境、経験、記憶が幾重にも重なり、複雑に絡み合った思考の奥底にある表現媒体の中核から発生するものなのだと考えます。その中核を抽出し、現代社会の中で彼らの「選択する」ための揺らぎのない「志向」のありかたに触れることで、作家としてのリアリティを確認できるのではないでしょうか。本企画において、作家それぞれの日常と変化する社会の境界で、救心と拡張の反復から得た感覚を「志向」と「選択」という視点から考えます。社会との対話の痕跡とも言える作品から、彼らの見えない意思の全容に接近したいと思います。
CSP実行委員会 保井智貴
会期:2018年9月13日(木)~10月9日(火)
休館日:日曜・祝日・9月20日・9月26日
※9月17日(月・祝)、9月24日(月・祝)は開館
開館時間:10:00-16:30(入館は16:00まで)
入館無料
CSPオフィシャルサイト:https://www.zokei.ac.jp/csp/
展覧会特設サイト:http://zoomedia.sakura.ne.jp/project/2018csp5/index.html (メディアデザイン専攻作成)
■関連イベント:事前申込不要・参加費無料
・シンポジウム
日時:2018年9月15日(土)17:00~19:00
会場:東京造形大学12号館201教室
パネリスト:鈴木のぞみ、五月女哲平、髙田安規子・政子、樋口明宏
モデレーター:森啓輔(ヴァンジ彫刻庭園美術館学芸員)
・レセプションパーティー
日時:2018年9月15日(土)19:00~20:00
会場:東京造形大学10号館1階
出品作家
■鈴木のぞみ
写真の原理を通して、何気ない日常の事物に潜む潜像のような記憶の可視化を試みています。私たちの周りには光が独り言を囁くように、潜像で満ち溢れていると捉えています。窓ガラスや鏡などの事物に定着された風景や肖像は、事物がかつて在った場所で人知れず形成されていた、事物からのまなざしを可視化したイメージです。写真が直接定着された事物は、それ自体が触覚的な身体のようなものを付与されます。写真は、それを通していまここにはない指示対象を見るものですが、写真それ自体が物理的な事物として存在することで、日常ではとりこぼされてしまうような、ささやかな現象や過ぎ去りゆく時を宙づりにすることができるのではないかと考えています。
2007年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻領域卒業
2015年 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了
2018年 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程 在学中
鈴木のぞみ
《Mirrors:鈴木邸玄関の鏡》2017年
使われていた鏡に写真乳剤を塗布 撮影:木暮伸也
■五月女哲平
わたしが住む街が街となる遥か以前、そこには何があったのだろう。
あなたが歩くその硬いアスファルトの下、そこには人々の生活が営まれていたのかも知れない。
支持体の上に置かれたメディウムが折り重なることによって絵画が成り立つように、気が遠くなるような『物語』と『物質』の積層の果てに、その場所は形づくられている。
わたしたちに出来ることと言えば、目の前に広がる風景の正面に立ち、微かに見え隠れする隙間に目を凝らして、注意深く、ただひたすらに眺め続けること。
それはきっと、昨日と今日についての深い考察と反省であり、明日に向けての十分な準備となるはずだ。
2005年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻領域卒業
五月女哲平
《聞こえる》2017年
アクリル、キャンバス
■髙田安規子・政子
身近なものにスケールの異なるモチーフを引用することで、空間や時間感覚の認識、固定概念に対する問いを投げ掛ける作品を制作しています。
たとえば知識や経験が未熟な子供が予想できない事物の捉え方をするように、制作過程では、モノの持つ形態や色彩、素材感という特徴を、可能な限り恣意的な判断をせず抽出し、新たな一面が自ずと現れてくるよう試みています。
ささやかなものと、対極である壮大なものとを同時に表すことで、日常から外部世界へと広がる視点を提示し、文明と自然環境の関係や様相を表現しています。
2001年 多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業(安規子)
2001年 東京造形大学造形学部美術学科比較造形専攻卒業(政子)
2003年 ゴールドスミス大学美術学部ディプロマ修了
2005年 ロンドン大学スレード校美術学部修士課程修了
2007年 ロンドン大学スレード校美術学部研究生修了
髙田安規子・政子
《カットグラス》 2014年
吸盤
■樋口明宏
毎日同じ時間に満員電車に乗っていないと気づかないことがある。毎日縁側に座って庭を見続けていないと気づかないこともある。
異国の異文化に接することで気づくことがある。生まれた土地でずっと生きていくことで気づくこともある。
小さな気づきと小さな思いつきが私には大切で、私は朝夕同じ公園をぐるぐる歩いている。
私の目は見ているようで全然見ていないし、自分の中にすでにある答えにもなかなか気がつかない。
今気づいていない事に明日の散歩で気づくかもしれないし、次の一周で気づくかもしれないと思う。
1995年 東京造形大学造形学部美術学科美術専攻Ⅱ類卒業
1997年 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
2000−2006年 ドイツ国立シュトゥットガルト美術大学留学
樋口明宏
《修復 – ヒーロー》2016年
古い木像、エポキシ、合成塗料
【シンポジウムの様子】
日時:2018年9月15日(土)17:00~19:00
会場:東京造形大学12号館201教室
参加者:70名
モデレーターにヴァンジ彫刻庭園美術館学芸員の森啓輔さんをお迎えし、森さんから質問形式で、各作家に作品のコンセプトや今回の展示についての考えや、気づきをお話いただきました。お互い意識した点や影響を受けて制作した作品についてなど、制作の裏側を知る貴重なお話を伺うことが出来ました。
撮影:五来正樹(2018年度博物館実習生)
本展企画:CSP実行委員 保井智貴(東京造形大学教授)
主催:東京造形大学附属美術館
東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻領域・彫刻専攻領域
CSP実行委員会/高橋淑人(東京造形大学教授)・宮崎勇次郎(東京造形大学助教)
協力:青山目黒
MA2 Gallery
MIKIKO SATO GALLERY
rin art association
末永史尚(東京造形大学非常勤講師)
下山健太郎(東京造形大学絵画専攻助手)
土屋祐二(東京造形大学彫刻専攻助手)