東京造形大学 Webサイト

お知らせ+ニュース詳細

長谷川教授の東欧都市建築研修ツアー報告

本学の長谷川章教授(室内建築専攻)の東欧都市建築研修ツアーと東京造形大学東欧都市建築研究会活動報告
毎年世界の魅力的な都市と建築を訪れる研修旅行を企画しています。今年は造形大学ばかりでなく他大学の学生を含めて19名が研修ツアーに参加しました。チェコのプラハでは華麗なアールヌーボーばかりでなく近代のキュビズムの建築を見学し、そしてボヘミアンガラス工房も訪れました。また中世の街並みが残るターボルそしてチェスキー・クルムロフを経て、オーストリアに入りウィーンでは美術史美術館やベルヴェデーレ宮殿でクリムトなどの絵画を観賞しました。その一方でフンデルトワッサーの建築も楽しみました。その後スロヴァキアの首都ブラチスラヴァを経てハンガリーのブタペストを訪れました。ここでは世紀末のハンガリーのアールヌーボー建築やイムレ・マコベツの礼拝堂などの現代建築も観賞し充実した研修を終えることができました。

プラハ旧市街の火薬塔と市民会館長谷川章教授プロフィール

南インド都市建築研修ツアー
エジプト都市建築研修ツアー
カンボジア都市建築研修ツアー
スペイン都市建築研修ツアー



東欧都市建築研修ツアーのパンフレット、東欧都市建築研修ツアーで訪れた東欧の国と都市 今回の研修旅行は昨年と同様に厳寒期を過ぎた2015年3月3日から3月10日までの8日間、 東欧のチェコ、オーストリア、スロヴァキア、ハンガリーを訪れました。この地域は中欧とも呼ばれるように、かつてはヨーロッパ文化の中心地域でした。ハプスブルクの時代に開花した華麗な文化が現在にも息づく地域です。天候は晴天に恵まれ、気温も良好で学生たちは東欧の文化を存分に楽しみ吸収してきました。往路は羽田空港からミュンヘン経由でプラハに入りました。大陸では大型バスで快適な移動ができました。体調を崩す学生も、スリや盗難にあう学生も一人もなく無事に帰国することができました。



東欧都市建築研修ツアー参加者  ウィーンのベルヴェデーレ宮殿庭園にて  2015年3月6日

最初に訪れた都市はチェコの首都プラハです。中世には神聖ローマ帝国の首都として栄えたこの都市は「百の塔の町」と呼ばれるのも頷けました。旧市街地には中世の教会の塔が林立し、独特の雰囲気を醸し出していました。プラハはその後ボヘミア王国の首都として栄えます。旧市街地からカレル橋を渡りヴルタヴァ川を越えると、対岸にはプラハ城が聳えたっています。王宮の奥には、ルドルフ2世の時代に錬金術師や占星術師が住んでいた迷路のような黄金の子路が独特の世界を現在に伝えてくれています。

ボヘミア地方といえばガラス工芸でも有名です。研修ツアーではこの伝統的なガラス工房を訪ね、職人たちがカットガラスを製造する過程をつぶさに見学してきました。その後プラハ城を見学したあと、旧市街地に渡り、ガラスを多用した現代建築やチェコ・キュビズムの近代建築を見学しました。そしてキュビズム博物館では魅惑的なキュビズムのコーヒカップなどの工芸品をお土産に購入しました。日本では見たこともないような造形美です。夕食はアールヌーボーの代表的建築である市民会館で伝統料理を楽しみました。
プラハ郊外のボヘミアン・グラス工房「リック・クリスタル」の工房の中庭で説明を聞く学生たち ボヘミアン・グラス工房「リック・クリスタル」の工房でガラスを吹く職人たち
フランク・ゲーリーとウラジミール・ミルニック設計の現代ガラス建築「ダンシングビル」1996年
プラハ郊外にヨゼフ・ホホル設計が設計したキュビズムの近代建築「ネクラノヴァ通りの集合住宅」1914年
キュビズム博物館のミュージアムショップ「CUBISTA」で売られているキュビズムの什器

プラハを見学した翌日はチェコを南下して中世都市のターボルを訪れました。この街は丘のような隆起した地勢に沿って15世紀に構築された街です。プロテスタントとカトリックの抗争の地としてフス派の拠点となった歴史を持っています。要塞都市として考えられた街では真っ直な道がなく迷路のような小路が張り巡らされているのが特徴的です。さらにターボルから南下すると、世界で最も美しいと称される街チェスキー・クルムロフがあります。S字に湾曲したヴァルタヴァ川に囲まれるようにたたずむこの中世の街並みは、中央に聳える城の塔から眺めると、その光景には誰しも感動を覚えずにはいられませんでした。
中央には方形のヤン・ジシュカ広場があり、ヒトデのような形の市壁に守られた街の輪郭が特徴的なターボル。 チェスキー・クルムロフは石畳の続く中世の街の姿を現在に残しています。

ヨゼフ・マリア・オルブリヒ設計の「ウィーン分離派館」1898年 チェコの中世都市を見学した後に、オーストリアの首都ウィーンまで直行しました。夕暮れに到着すると、旧市庁舎の地下のレストラン「ラーツケラー」で「シュニッツェル」を食べました。翌朝はホテル周辺を散策し、オットー・ワーグナーの建築を見学しました。そして午前中はベルヴェデーレ宮殿を貸切でクリムトとシーレとココシュカを、昼は美術史美術館でブリューゲルを中心にハプスブルク家のコレクションを観賞しました。その後学生には人気のあるフンデルトワッサーの設計した集合住宅や芸術館を訪れ、その自由な造形空間を体験しました。また市内にあるフンデルトワッサーがデザインしたゴミ焼却場は特異なデザインで目を見張らせるものでした。最後に集合住宅「カール・マルクス・ホーフ」を見てからスロヴァキアへ向かいました。



ベルヴェデーレ宮殿  1663~1736年 と ベルヴェデーレ宮殿で一人占めにしたクリムトの《接吻》1908年
フンデルトワッサー設計の「フンデルトワッサーハウス」1986年
カール・エーン設計の1800世帯のための集合住宅「カール・マルクス・ホフ」1926-30年

レヒネル・エデン設計のアールヌーボー建築「青の教会」1904年
ウィーンを後にして1時間ほど東へ車を走らせるとスロヴァキアの首都ブラチスラヴァに到着します。ここは長いあいだハンガリーの国土の一部として首都が置かれました。ドナウ川に生まれたこの都市は現在でも旧市街地が当時の雰囲気を現在に伝えています。しかしここにはハンガリーの世紀末に活躍したレヒネル・エデンという建築家の代表作の一つである「青の教会」があることでも知られています。

ヘンリック・ベーム設計「旧トロク銀行ビル」1906年 建築ファサードのモザイクタイルによるアールヌーボーの装飾が特徴的だ。 ドナウ川の流れに沿って下っていくと、今回の研修旅行の最後の都市であるハンガリーの首都ブタペストへ到着しました。さすがに「ドナウの真珠」と呼ばれただけあります。到着した夜にドナウ川までいくと対岸のブタの丘に聳える王宮がライトアップされ、とても美しい光景でした。ブタの王宮の見学の後に、隣接するセンテンドレという小さな村も訪れました。またペストの旧市街地ではドナウ川の水面に優美な姿を映す国会議事堂を見学しました。17年をかけて建設したというインテリアは工芸品のようでした。さらにレヒネル設計のハンガリーのマジャール文化をデザインした建築を訪れました。最後に現代建築家イムレ・マコベツが設計したファルカシュートの礼拝堂を見学しました。最後の夜はブタペスト郊外の伝統的マジャール民族の舞踏を観賞しながら伝統料理を楽しみました。みなで踊りながら最後のブタペストの夜をすごしました。このレストランからみたブタペストの夜景の美しさは今も忘れられません。


ドナウ川に優美な姿を映すシュティンドル・イムレ設計「国会議事堂」1884-1904年 「国会議事堂」のインテリア。ウィーンをライバル視して絢爛豪華となった。

レヒネル・エデン設計によるマジャール建築様式の「応用美術館」1896年 「応用美術館」の玄関キャノピーのデザインはインドをモチーフとしている。

レヒネル・エデン設計によるマジャール建築様式の「地理学研究所」1899年 インテリアでは波打つようなアーチと刺繍のようなエッチングガラスのデザインが特徴的だ。 イムレ・マコベツ設計の「ファルカシュートの礼拝堂」1975年 胎内のような独特のインテリアのデザインが印象的である。

東欧都市建築研修ツアー写真展ポスター 目まぐるしいほどに見学を組み込んだ研修旅行も終わりました。特にウィーンでは時間が足りないほどでしたが、一週間ではとても味わえないほどの歴史が重層化した東欧諸国の都市を駆け足で楽しんできました。しかし学生はそれぞれの眼差しで東欧を捉えています。その感動の眼差しを是非学友に伝えたいと思った学生有志が写真展を企画しました。














←東欧都市建築研修ツアー写真展ポスター

東欧都市建築研修ツアー写真展風景(東京造形大学CSギャラリー)と東欧写真展を企画した学生有志

この写真展は、研修旅行を単なる観光に終わらせず、自分たちの眼差しで捉え直すことにより自分のものにするという意味で重要です。さらに相談しながら企画からポスター、展示準備から後片付けまで含めて計画実践していくことはデザインマネジメントとして重要な経験となります。大学の教室の中だけでは学べないことを研修旅行を通して学ぶことができたでしょう。


東欧都市建築研修ツアー写真展を企画した学生有志
篠原那由他(室内建築専攻3年生)
横山天香 (室内建築専攻3年生)
三浦真奈 (室内建築専攻3年生)
水原麻那 (室内建築専攻3年生)
丸山春香 (室内建築専攻3年生)
作田ひかる(室内建築専攻3年生)
田中利世 (グラフィックデザイン専攻3年生)