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長谷川教授のカンボジア都市建築研修ツアー報告

2012年2月21日-25日  文責:長谷川章

本学の長谷川章教授(室内建築専攻)のカンボジア都市建築研修ツアーと東京造形大学カンボジア研究会活動報告
毎年アジアを中心に魅力的な都市と建築を訪れる研修旅行を企画しています。今年は他大学の学生を含めて23名がツアーに参加して、カンボジアのアンコール王朝の遺跡群を中心としてカンボジア文化を満喫してきました。

長谷川章教授プロフィール

南インド都市建築研修ツアー
エジプト都市建築研修ツアー



今回の研修旅行は2012年2月21日から5日間、カンボジアの乾季を狙ってシエムレアップを拠点にアンコール王朝の遺跡群を訪れました。
真冬とはいえ最高気温は36度に達する真夏のような連日の機構のなかで汗をおもいっきりかいてきました。日本からはヴェトナム経由、往路はホーチミン、復路はハノイでトランジットしました。拠点のホテルから専用バスで遺跡群を訪れるという毎日を繰り返し、アンコールの建築文化を吸収してきました。




今回の研修ツアーの狙いの一つは宗教です。現在のカンボジアの国民の95%は上座部仏教を信仰しています。しかしカンボジアのアンコール王朝遺跡群には仏教寺院とヒンズー寺院が混在しています。アンコールワットはヒンズー寺院として建立されましたが、現在は仏像が置かれて仏教寺院となっています。時代に応じてそれぞれの寺院は仏教とヒンズー教の間で揺れ動いてきました。仏像が剥ぎ取られた壁の跡を見ながら、こうした宗教の歴史を学びました。そしてアンコールトムの観世音菩薩の微笑みが導く極楽浄土の世界に思いを馳せることができました。

アンコールワット中央には高さ65メートルの塔が聳え立っています。
その一番高い第一回廊までの長さ600メートルの参道を歩くうちに心が癒されてきます。
そして現地を訪れて 初めて身体でアンコールワットの巨大さを知ることができました。


この遺跡群の壁面を埋める天地創造を描いた乳海撹拌のレリーフは圧巻でした。
そして柱の角や小壁には女神デヴァターのレリーフが私達を迎えてくれました。



東アジアは水が豊かな地域です。インドシナ半島の国々とは水の神ナーガが支配する世界です。アンコールワットの参道の手摺りには必ずナーガが彫り込まれています。水は人々の日常生活を支配し、6月から半年間の雨季には、人々は雨とともに日々を暮らします。そしてカンボジアでは特異な遺跡群があります。即ちシエムレアップ川の源流には川の底の石面にシヴァ神やヴィシュヌ神そしてリンガやヨニなど様々なレリーフが彫られているのです。

川の源流へは途中まで車で行くことができましたが、後は川沿いを歩いて行きます。
最近はやっと地雷が除去されてこうした山奥の遺跡にも学生が訪れることができるようになりました。



今回の研修ツアーの大きな特徴は、遺跡や博物館の見学ではなく、生きた人々の生活する都市や建築を体験することにあります。の一つはガイドブックには載っていないごく普通の民家を訪れることです。これは出発時には未確定のプログラムで、現地についてからガイドのカンボジア人と打ち合わせながら可能性を探っていきます。今回は湖周辺の高床式住居を訪れることができました。

アンコール王朝はトンレサップ湖の豊かな自然をもとにして栄えました。
琵琶湖の数倍もあるこの広大な湖は雨季にはさらに5倍ほどの広さになります。

雨季には丁度湖面が床の高さになるような高床式民家が湖周辺には建っています。
その竹と木材で建てられた小屋を訪れることができました。
竹を張った隙間だらけの床からは池を泳ぐ鴨が見えます。
立つと屋根に頭がぶつかる程の低い小屋にもテレビやステレオが揃っています。
しかしその小屋を支える柱の軽やかさは、地震国日本では想像できないものでした。



船でトンレサップ湖に出ると、水上集落に出会います。
この住宅は、なんと竹の束を幾つも連結させた基礎の上に造られ、まさに湖上に浮かぶ水上住居による集落です。

←トンレサップ湖には竹の浮力による水上住居が村を形成している


アンコール遺跡群のほとんどは平坦な土地に構築されています。このため小さな山は聖地として寺院が建設されています。アンコール王朝以前には聖山プノン・バケンが王宮として中心的な位置を占めていました。トンレサップ湖をパノラマできる聖山プノン・クロムは戦争中には重要な軍事拠点でした。こうした聖山の遺跡を巡るのも、今回の研修旅行を特色付けるものです。

聖山プノン・バケンはアンコールワットを俯瞰できる位置にあります。
しかし山を含めてピラミッド状に構築された寺院の階段は急峻でしたが、登ったときには壮大なパノラマを一人占めすることができました。

←三大聖山の一つ遺跡プノン・バケン寺院の急峻な階段を登る学生たち

プノン・クーレンは聖山に数えられてはいませんが、そこには地元の人々の信仰の対象となっている涅槃仏プリア・アントンがあります。
靴を脱いで参拝してきました。


トンレサップ湖に近い聖山プノン・クロムの長い階段を登ると、そこからは遠く湖へと続く水田の果てに沈む夕陽を見ることができました。
白いシラサギの群れが水田を飛ぶ姿が目に焼きついています。



研修ツアーではできるだけ地元のカンボジア人と交流したいと努めました。民家を訪れるのもそうですが、しかし学生と同じ年代の子供たちと交流する場を作るのはなかなか難しいものです。しかし買物を通して接していると、やがて学生たちもものおじすることなく地元の人々と接することができるようになります。




短期間の旅行ではありましたが、今回初めてパスポートを作り、はじめてビザをとって初めて飛行機で海外に出た1年生にとっては劇的な体験となりました。そこで受けた刺激や感動を感受性豊かな学生たちは学友に伝えたいと思い立ち、ここに写真展という形で発表することとなりました。





東京造形大学のギャラリーにおいて2012年6月21日から26日まで「カンボジア写真展」が 有志により開催されることとなりました。そこには拙い写真ながら、学生たちが自らの眼でとらえたカンボジアの姿を見ることができました。

この写真展はカンボジア都市建築研修ツアーの締めくくりですが、実は学生たちが自分たち自身で勉強していく始まりでもあります。大学のプログラムではなく自分たちで企画をして時間や予算を都合し事務手続きを全て行って初めて行った自主的な勉強の場なのです。写真展を通じて勉強や研究やデザインとは自分たちで自主的に取り組むべきものであることを学びました。学生はこうして大きく成長していきます。研修旅行自体もまた学生がやがては自分の行きたい国へ一人で行けるようになれるためのステップに過ぎないのです。

カンボジア写真展企画した学生有志
渡辺麻里(絵画専攻2年)
上田侑生(絵画専攻2年)
若島美希(インダストリアルデザイン専攻2年)
大居まゆ子(インダストリアルデザイン専攻2年)
林理奈(インダストリアルデザイン専攻2年)
余川郁(インダストリアルデザイン専攻2年)
阿部有紗(インダストリアルデザイン専攻2年)
赤塚裕介(写真専攻2年)
金口誠(インダストリアルデザイン専攻2年)
渡辺昌治(インダストリアルデザイン専攻2年)
舩橋宗平(室内建築専攻卒業生)
山本和子(早稲田大学文化構想学部3年)
佐藤孝輔(早稲田大学社会科学部部4年)
菅野美奈子(早稲田大学文化学部大学院1年)