長谷川教授のスペイン都市建築研修ツアー報告
スペイン都市建築研修ツアー 2013年3月3日~3月10日
本学の長谷川章教授(室内建築専攻)のスペイン都市建築研修ツア-と東京造形大学スペイン都市建築研究会活動報告
毎年アジアを中心に魅力的な都市と建築を訪れる研修旅行を企画しています。今年は造形大学ばかりでなく他大学の学生を含めて27名が研修ツアーに参加し、スペインのアンダルシア地方やマドリッドそしてバルセロナを巡り、レコンキスタにおけるイスラムとカトリックの文化が融合した都市、並びにゴヤやエル・グレコやピカソといった近代の画家達の作品そしてガウディを代表とするモデルニスモの建築をバルセロナに訪ねました。
⇒ 長谷川章教授プロフィール
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今回の研修旅行は厳寒期を過ぎた2013年3月3日から3月10日までの8日間、スペインの南部を対象としてグラナダ、セビリア、コルドバ、トレド、マドリッド、クエンカ、バレンシア、バルセロナを訪れました。
地中海に面したアンダルシア地方やバルセロナは温暖でしたが内陸はまだ寒く天候も不順でした。しかし天候には恵まれ計画された研修はつつがなく行われ充実した時を過ごすことができました。往路は日本からパリを経由してスペイン南部のマラガに降り立ち、帰路はバルセロナからパリ経由となりました。スペイン国内はゆったりした大型バスにより快適な移動ができました。学生には病気や怪我もなく、おいしい食事も満喫してスペインの文化を十二分に楽しんできました。
今回はアジアではなくヨーロッパのスペインを研修先にしました。しかしアンダルシア地方とはアフリカのイスラム文明とヨーロッパのキリスト教文明が融合した特異な地域です。現在のキリスト教の教会建築でも古くはイスラムの人々のモスクであったことが知られています。スペインとは多くのイスラムの文化が12世紀から15世紀にヨーロッパ大陸へ伝えられた地域であり12世紀ルネサンスといわれました。
最初に訪れた都市はアンダルシア地方のグラナダです。ここにはレコンキスタまでイスラム教徒の支配の拠点であったアルハンブラ宮殿があります。噴水と池を多様した複雑な部屋が入り組んだ宮殿は、移動するに従って異なった世界が展開します。また偶像崇拝を否定したイスラム教の建築の特徴ですが、インテリアは幾何学模様で埋め尽くされており、私達を魅了せずにはおきません。そしてアルハンブラ宮殿の夏の離宮であるヘネラリフェ庭園も訪れましたが、優雅な噴水のあるイスラム庭園が印象的でした。
アンダルシア地方でもう一つイスラム文化から強い影響を受けた建築はコルドバのメスキータと呼ばれるモスクです。8世紀から拡張を繰り返し、二万人が礼拝できるといわれるこのモスクのインテリアでは上下に二重に架けられた縞模様のアーチが特徴です。内部は無数のアーチを支える支柱で森のようです。興味深いのは16世紀にこのモスク中央部に教会が建設されたことです。レコンキスタをまさに象徴する建築といえるでしょう。
アンダルシア地方を後にしてスペインを北上しトレドを訪れました。トレドにはイスラム教徒から解放された15世紀に建設された大聖堂が建設されるなど、首都がマドリッドに移るまでトレドはキリスト教とスペインの中心地でした。中世の面影を残す迷路のような街にはかつてエル・グレコが住んだ家や、彼が多くの宗教画を残した教会のある街です。特にサント・トメ教会の《オルガス伯爵の埋葬》は秀逸でした。
トレドの次は首都マドリッドを訪れました。ここには世界有数のプラド美術館があります。ゴヤの《裸のマハ》やエル・グレコの《聖三位一体》そしてベラスケス《ラス・メニーナス》をはじめ教科書に出てくる絵画作品が目白押しでした。二時間もあっという間に過ぎ去り、後ろ髪を引かれる思いでプラド美術館を後にしました。さらにマドリッドのソフィア王妃芸術センターを訪れピカソの《ゲルニカ》を見てきました。圧巻です。
都市建築研修ツアーでは特に室内建築専攻の学生にとってはホテルでの宿泊体験が重要です。今回の研修ツアーでも高級ホテル宿泊を組み込んでみました。マドリッドから2時間ほど西へ移動するとクエンカという小さな中世都市があります。中世都市自体の魅力もさることながらここにある修道院を改装したパラドールというホテルの空間の体験は学生にとって掛け替えのないものとなりました。
研修ツアーも終盤にさしかかりました。クエンカから一気に南下し地中海側まで移動しバレンシア経由でバルセロナを目指します。バレンシアには興味深い現代建築があります。古い建築ばかりでなく現役の建築家が設計した建築も研修旅行の目的の一つです。バレンシアの郊外にはサンティアゴ・カラトラバというスペイン出身の建築家が設計した科学都があります。その有機的な白い建築は必見です。
最後の目的地バルセロナはカタロニア地方の州都でもありスペインの中でも独特の文化を持つ都市として知られています。ここには建築家アントニオ・ガウディのモデルニスモと呼ばれる建築が沢山あることで有名です。
最後の夜にはフラメンコを観劇し、生の舞台の迫力に感激しました。こうしてスペイン文化を丸ごと味わった研修旅行が終わりました。特に初めてパスポートを取得した1年生にとっては造形大学に入学してから劇的な1年間であったと思います。その感激を是非学友に伝えたいと思った研修ツアー参加者の中から有志が写真展を企画しました。
この写真展は、研修旅行を単なる観光旅行に終わらせず、もう一度咀嚼し研修旅行を学生自身が自分のものとするという意味で重要です。また自分たちが感じたものを写真を通して表現するということも大切です。さらに自分たちで企画からポスター造りそして後片付けまで含めて計画し実践していくことにより、主体的に物事に取り組む姿勢を養うことができます。こうして学生達は研修旅行を通して成長していきます。大学の授業では学べないことを研修旅行を通して学ぶことができたことでしょう。
スペイン写真展を企画した学生有志
手島卓(グラフィックデザイン専攻2年)
斎藤智美(グラフィックデザイン専攻3年)
野坂彩(グラフィックデザイン専攻3年)
鈴木晴花(グラフィックデザイン専攻3年)
水谷亜美(インダストリアルデザイン専攻3年)
渡邊早織(絵画専攻3年)
若島美希(インダストリアルデザイン専攻3年)
堀切友加里(映画専攻3年)
阿部有紗(インダストリアルデザイン専攻3年)