TOKYO ZOKEI UNIVERSITYだれかで終わるな。

東京造形大学工房運営課 風間 純一郎 Junichiro Kazama

映像制作会社zona 代表取締役

狩野 嵩大

Takehiro Kanou

PROFILE

学士課程 デザイン学科 映画専攻領域 2011年卒業・修士課程 デザイン研究領域 2013年終了。造形大の同期の内島良輔さんと映像制作会社zonaを設立。代表取締役として会社経営に携わりながら現場を率いる。

「だれかで終わるな」というタグラインの印象は?

「だれかで終わるな」というテーマは、美大生には残酷です。輝く才能は、千に一つ。私はその他大勢の捨て石なのではないかと、在学中は苦悩しました。

頭が良い人、絵がうまい人、想像力が豊かな人……自分より優れた人は世の中にごまんといます。その現実を、進学校や美術予備校でじわじわと感じ、造形大に入って決定的に突きつけられたんです。同じ年齢のとてつもない天才がいる、生まれながらにして差があるんだなぁと、クヨクヨしている私には、コンプレックスしかなかった。でも、ゴッホやセザンヌも生きているうちは「だれか」に過ぎなかったし、評価されたのは死後のことです。そこまで過酷な人生を歩む必要はないし、一流になれなくても良い、それが美術や芸術の良いところだとも思います。あるなしで大事なのは才能ではなく、「だれか」で終わりたくないと踏ん張る“熱量”。コンプレックスこそ、その原動力なんです。

モチベーションはなんですか?

モチベーションは勝手に湧いてくるものではありません。人に与えられるものでもない。ましてや、自分で見つけられるものでもないんですよ。

では一体、モチベーションとは何なのか? 人間はみな、何かしかのモチベーションによって生かされている。 “生きていくための理由”を探します。私も普通の大学を出て、就職して働き続ける人生ではモチベーションを保てないと思ったので、美大に進みました。しかし、手応えは感じられず、卒業後もその気になれるような仕事に就くことができなくて腐っていました。そんな時に、大学時代の同級生と再会して。ディレクションしているという撮影現場を見学させてもらったのですが、天才だと思っていた彼が右往左往して汗をかいていた。ヒリヒリした緊迫感の中での冷や汗です。でも、挑む姿が格好よかった。リスクをとることがモチベーションなのだと、気づかされたんです。その彼は今、ともに汗をかく相棒で、スタッフとも毎日、ヒリヒリヒヤヒヤの連続。おかげで充実していますよ。

未来に対しての不安はありますか?

30代半ば過ぎたところなのですが、生まれたのはバブル崩壊直後。そのあと、地下鉄サリン事件があって、アメリカの同時多発テロ事件が起こり、東北大地震。そして、コロナ禍……ずっとこんな調子ですから、この先一体どうなるのだろう?と、いつも不安です。暗中模索の状況には慣れっこですよ。

メディアの制作会社を立ち上げた後も、出版業界が不振で広告料は下がる一方。雑誌は売れなくなって電子書籍化が進み、リモート化で撮影も思うようにできない。さらには、動画編集技術を覚えたい人が増えて、そのためのソフトが開発され、1億総クリエーター時代に突入した。つまり、私たちのようなプロの技術さえ、唯一無二じゃなくなるということです。世界はどんどん変わっていきます。だったら、自分も変わるしかない。努力して手に入れた安心できる居場所も、いつか手放す時が来る。でも、そういう不安は人を強くします。弱さは最大の強さになります。人生は過酷です。どんな時も、しなやかに生きていけばいいんです。

なんのための仕事ですか?

活躍できる場を見つけて、世界観を広げ、世の中を変えるため? そういう上昇志向は大事です。でもその前にまず、必要とされることを見つけないと。言われたことだけやっているようでは、成長できません。

懇意にさせていただいている企業の担当者に「なぜ、うちに仕事を頼むんですか?」と聞いてみたことがあるんです。映像制作会社なんてごまんとある。規模も小さいし、社歴も浅い。なのに、なぜ何度も仕事を振ってくれるのだろうと、社長として素朴な疑問が沸いたんです。当然、「センスがいいから」とか、「技術が優れているから」といった答えを期待しました。なのに、返ってきた答えは「楽しいから」。半ば驚きながらも、納得できる感じもあって。お金を払ってくれる方も、僕らとやったら楽しいと思ってくれる。それは大きな価値なのかもしれないと気づかされたんです。

真面目な人ほど、誰かに何かを教わろうとして受け身になりがち。でも、大学も、仕事も、自ら学ぼうとしなければ何も得られないんです。自ら学ぶということは、いろんな人と出会う機会を作ってコミュニケーションをとること。ツイッターやインスタなどの仲間うちだけで褒めあっているような関係からは、何も生まれない。追い求めるべきは、フォローしてくれない人の評価。勇気を持って集団から抜け出せば、必ず何か得られます。たどり着いた先の世界観がそれまでの生き方や価値観にマッチしないなら、自分が変わればいいのです。

だれかで終わるな。