TOKYO ZOKEI UNIVERSITYだれかで終わるな。

東京造形大学工房運営課 風間 純一郎 Junichiro Kazama

グラフィックデザイナー/タイプデザイナー

今市 達也

Tatsuya Imaichi

PROFILE

学士課程 デザイン学科 グラフィックデザイン専攻領域 2013年に卒業。株式会社MIMIGURIでグラフィックデザインを担当する傍ら、デジタルフォントを制作。日本タイポグラフィ年鑑 審査委員賞/入選など。
Twitter:@ima_collection

文字に関心を持つようになったきっかけは?

小学生の頃、学校の教科書に印刷された文字はすべて手書きだと思い込んでいて、なぜ同じ形の文字をきれいに揃えて書けるのだろうと、不思議だったんです。もちろん、あとで印刷されたものだと気づくのですが、それから活字が気になり始めて。無意識に少しずつ、文字に関心を持つようになりました。

在学当時の造形大にはAdobe Illustratorで写真やイラスト、フォントを使って、ポスターやチラシを作る授業がありました。フォントは写真やイラストとは違って、最初からパソコンにインストールされているものです。ですから、画面上では誰が作ったものかは分かりません。そのルーツを知りたくて、フォントについて調べ始めたんです。今でもそうなのですが、わからないことがあるとそれがなぜなのかをちゃんと理解してからでないと前に進めないクセがあるんだと思います。

仕事が休みの日にタイポグラフィやデザインの勉強会に通ったりしているのですが、書体設計の私塾で制作したのが「あかがね明朝体」です。日本タイポグラフィ協会主催のコンペティションに入賞した時は、これでやっと、造形大でお世話になった長井健太郎先生にもご報告できると思い、本当にうれしかったです。

グラフィックデザイナーの仕事を知ったのは?

自分が作ったものを誰かに使ってもらったり、所有してもらうことに興味があります。父は日曜大工が趣味で、僕が幼い頃はミニ四駆のコースを段ボールで上手に作ってくれました。母は英会話教室の先生をしていて、自ら教材を手作りしているのを見ていたので、そういう影響もあるのかもしれません。僕も昔から絵を描くことが好きでした。

「グラフィックデザイン」という言葉を知ったのは、佐藤可士和さんのドキュメンタリー番組でした。グラフィックデザイナーという職業があって、みんなが持っているポイントカードをデザインした人だということを初めて知って。それまでは、よく目にするロゴでも、誰が作ったのかと考えたことはなかったので驚きました。夢がある仕事だなぁと思ったんです。

フォントとグラフィックデザインを両方制作する意図は?

たとえば蒸気機関車は、一つの車輪が回ることで、連結する他の車輪もしだいに回り始めます。その動力が車両を動かし、そこに乗っている人や貨物は遥か遠くの別の場所へと運ばれていきます。やがてそれらが世界を動かしていく。当たり前のことではありますが、このように一つの車輪と連動して、世の中が回っていくような「ひとつのパーツが機能している状態」にとてもわくわくするんです。フォントやグラフィックにも、それと共通する機能美の魅力があると思っています。

フォントは、デザイナーだけにとどまらず、学生や会社員がウェブを見たり、メールを送る時など、日々様々なシーンで使われています。たとえば、ひらがなは50音のバラバラな文字で構成されていますが、それらのパーツがいろいろな並び方に組み変わることによって、多種多様な表現やメッセージの伝達に繋がります。「あ」という一つの文字が車輪のように基点となって、世の中を動かしていくことに魅力を感じるのです。グラフィックデザインも同じです。制作したロゴマークがCMやウェブサイトなどのいろいろな媒体に使用されることで人の目に留まり、機能していくことに美しさや面白さを感じています。

小さな車輪が回ることで世の中が大きく動く。そういう感覚が、フォントにも、グラフィックにもあるんです。だから、両方手放せずに仕事にしているのだと思います。

学生のみなさんに何かメッセージはありますか?

現在はグラフィックデザインと文字に携わることを生業にしていますが、在学中は、仕事としてこんなに文字と向き合うなんて思ってもいませんでした。当時はグラフィックデザイン以外にも、写真スタジオでブツ撮りをしたり、映像制作をしてみたり、自分が面白いと思えるものを探し続ける日々でした。たまたまその中に、写植やタイポグラフィの授業もあったんです。卒業後も自分が何に力を入れていけばいいのか、わからない状態が続き、社会人7年目ぐらいでようやく、自分がやりたいことは文字関係なのだと気づくことができました。

将来、何をやりたいのか、在学中に1本に絞ったり、判断することは難しいかもしれません。大学は、やりたいことの選択肢を増やす場です。焦りや不安は感じるかもしれませんが、やったことのないことに、ぜひひとつでも挑戦してみてください。

だれかで終わるな。