TOKYO ZOKEI UNIVERSITYだれかで終わるな。

東京造形大学教授

長井 健太郎

Kentaro Nagai

INTERVIEW

PROFILE

33期、視覚伝達専攻卒業。アートディレクター/グラフィックデザイナー。様々な媒体のアートディレクションおよびデザインを手がけるとともに、自主プロジェクトによる作品発表も行う。

東京造形大の卒業生ということですが、
在学中にどんなことを学びましたか?

専攻はグラフィックデザインでしたが、興味があることは何でもやりました。バンドや映像製作、ファッションショーに服を出展したりと、興味が赴くままにいろんなことに挑戦していました。

それというのも、僕はスタートが遅かったんです。美大を目指し始めたのは高校2年のときで、当時はまだサッカー部でした。たまたまレコード店で見つけた一枚のジャケットに強く興味を惹かれて、グラフィックデザインをやってみたいと考えたんですが、美術部でも何でもないサッカー部員がいきなり美大を目指すわけですから、他の受験生に比べてハンデがある。何とか2浪して入ったのが本学だったので、学生時代はその時間を取り戻すかのように、楽しいと思えることをやっては失敗を繰り返していました。たとえば、服を作った時に「これは絶対イケてる」と自分では思っていたのに、実は30年前のアイデアだったりとか……。一見すると無駄な回り道に見えるかもしれませんが、そのなかで「自分から動かないと物事は何も動かないし進まない」ということを学びました。

在学中の経験は、
社会でどんな役に立ちましたか?

まず、違う分野の知識はデザインを考えるときなどにも役に立ちましたし、社会に出て初めて先生が教えてくれたアドバイスを痛感することもありました。

僕は学生に「本は読まなくてもいいから買いなさい」とよく話すんですが、実は学生時代によく言われていた言葉でした。もちろん読んだ方がいいとは思うんですが、本に限らず少しでも興味を持ったものはスルーするのではなく、なるべく何らかの体験を伴うかたちで自分に吸収することが大切。もしかしたら無駄になるかもしれないけど、なけなしのお金でとりあえず買ってみる、見に行ってみる、体験してみる、という行動を起こすことは、さまざまなアイデアの源にもなるからです。僕は、そういった興味の記憶を辿って、アイデアをカタチに変えていきました。今回のステートメントのなかに『「わたし」として立ち向かい、想いをカタチにしていく人。」という一文にあるように、自分の“好き”という感覚をカタチとして表現することが何よりも大切なのだと思います。

だれかで終わらない」
なるためには?

このタグラインを見て感じたのは「誰かに憧れて終わるな」とか、そういった他の誰かに左右されて物事を判断するのではなく、自分の感覚を磨くことの大事さ。言い換えれば、他人から言われてやるのではなく、常に自分で選択し行動することでもあると思います。

あるいは、好きなことをとことん追求することでもあります。たとえそれが無駄なことに思えたとしても、一度好きだと思ったら行動し、体験してみる。とことん追求して、やりつくせば、たとえそれが結果として表われなくても、自分自身のオリジナリティとなって身についていくはず。そのなかで自然と将来の具体的な目標や到達点を思い描けるようになるのではないでしょうか。そして、明確な目標を持つようになると、そこに到達するために必要なことが逆算でき、そのために何をすべきかがわかるようになっていきます。個人差はあるかもしれませんが、好きなことに無駄なことはないと僕は思っています。

本学で学んでほしいことは?

本学で学ぶスキルや知識はもちろんですが、学生時代は「自分で考え、行動し、数多く失敗すること」から学ぶことが大切だと思います。その一方で、おそらくこれから先の未来で必要になる人材は、今世の中で起こっていること、これから起こるであろうことに関心を持っている人だと考えています。そしてそこから見えてくる問題に対してアイデアを出し、物事を解決に導ける人でしょう。業種や職種は関係ありません。

ですから、学生時代は特に発想の部分、つまり視点と思考の柔軟性を身につけてほしいと考えています。そのため、僕はブレインストーミングを取り入れた授業を行い、新しいアイデアを模索することで視点と思考の柔軟性を高め、それをアウトプットに結び付けていくことを学生に実践させています。いわば「想いをカタチにする」ための第一歩を学んでほしいのです。それが「だれかで終わるな。」を実現できる学生を育てることに繋がると信じています。

だれかで終わるな。