TOKYO ZOKEI UNIVERSITYだれかで終わるな。

東京造形大学学長 山際 康之 Yasuyuki Yamagiwa

東京造形大学学長

山際 康之

Yasuyuki Yamagiwa

INTERVIEW

PROFILE

東京大学博士(工学)取得。ソニー入社後、ウォークマン等の開発を推進し、製品環境グローバルヘッドオフィス部門部長を務める。著書に「リサイクルを助ける製品設計(講談社)」など。

だれかで終わるな。は、
どんな想いが込められている?

本学は美術大学ですから、絵画や彫刻、デザインなどの専門分野の知識やテクニックを身につける大学です。それは何かを表現するうえで非常に重要なことではありますが、ただ技術を磨くだけでは、本当の意味での独自性や個性を発揮することはできません。いかにアウトプットの手法が一流でも、想像力やアイデアが乏しければ、せっかくのテクニックも世の中に埋没してしまうでしょう。

そこで、私たちは本学の学生に、表現をする以前の柔軟な発想力や、それを成し遂げるための実行力を身につけてほしいと考えています。オリジナリティや個性が叫ばれて久しいですが、本学の学生にはそのさらに上を目指し、固定概念にとらわれない「唯一無二の自分」になってほしい—その想いを込めた言葉が「だれかで終わるな。」なのです。

どうすれば
唯一無二の自分になれる?

私は、ソニーのロボット事業部という部署で工業用ロボットなどの開発に携わっていました。当時のロボット開発は社会的に認知も浅く、社内では「お荷物部署」といわれていたこともあります。しかし、時を経てAIやIoTなどが注目され始めると、私たちの開発・研究成果は「お荷物」ではなく「宝物」となり、高く評価されるにまで至りました。

このような成果を得られたのは、私たち事業部が他人の評価に左右されることなく、自らの価値を信じて開発に没頭したからではないでしょうか。好きなことを掘り起こし、それをカタチにして発信し続ける。それが何よりも大切なプロセスであり、結果でもあります。そのために苦悩し、歯がゆい思いをすることもあるでしょう。それでもやり遂げようとする意志があれば、そのプロセスそのものが何にも代えがたい自分だけの価値になりえるのだと、私は信じています。

自分の価値を見つけ、
磨くために必要なことは?

まず、頭よりも先に体を動かすこと。美術やデザイン分野は、方程式に当てはめれば正解に辿り着けるものではありません。ですから、いかに実践して経験を積み重ねていくかによって、何かをカタチにするまでのプロセスがまったく異なります。その経験ひとつひとつが、大学という場に埋まっているはず。そうして学生たちが掘り起こしたものは、すべてが「宝物」であり、自分の価値として蓄積されていくのです。

本学では、こうした経験を実践的に学べる場でありたいと考えています。本年度からは「プロジェクト科目」といって、講師の方々がそれぞれの専門分野を活用する授業を開講しました。また、これまでも課外授業において、社会で活躍している企業や、地域活性化を目指す自治体などと連携して一定の成果を生み出しています。美術やデザイン分野に限らず、サービスやプランといったビジネス分野に至るまで、一般的な美術大学にはない経験の場が本学にはあるのです。

学生たちには、
どんな人間に育ってほしい?

未来に至るまでのプロセスは、ひとりひとりで異なるもの。ですから、「どんな」とか「どのような」人間になってほしいか提示することはありません。しいて言うなら、いいデザイナーや素晴らしい芸術家を輩出したと言われるよりも、変わり者がいっぱいいると呼ばれるような大学にしたい。

社会の要求に応えられる人間よりも、いい意味で社会を壊せる発想やイノベーションを生み出せる人間になっていただきたいと考えています。だれかで終わらないためにも、経験という「宝物」を磨き、そこで生まれた想いをカタチにするまでやり遂げる。どんなプロセスを歩んでも構いません。既成概念に捉われない「自分」になるために、自由闊達な場として本学を楽しんでほしい。それが、私たちの願いなのです。

だれかで終わるな。