TOKYO ZOKEI UNIVERSITYだれかで終わるな。

東京造形大学工房運営課 風間 純一郎 Junichiro Kazama

鍛鉄作家

田中 謙太郎

Kentaro Tanaka

PROFILE

学士課程 美術学科 彫刻専攻領域 2005年卒業・修士課程 美術研究領域(彫刻)2007年修了。 照明メーカーのデザイナーから鍛鉄作家に転身。鍛鉄atelier K-plusを設立し、受注によるオーダーメイドの作品を製作販売している。

進む道に迷いはありましたか?

美大進学を決めたのは、高校1年生の時。美術予備校の夏季講習で、描ける子がたくさんいることに気がついた。絵が得意で自分は上手いと思っていましたから、落ち込むどころか火がついたんです。その後、粘土にはまって彫刻を受験し、木彫に取り憑かれました。とはいえ、木彫は学んだ技術を直接的に活かせるような仕事の身の振り方が難しい。作家として独り立ちできる才能はひと握りですし、家具や建築設計で木材を扱えれば良い方で、全く関係ない職に就く人も多いのが現実です。私自身、学部3年生の時に少し不安になって家具屋さんでバイトをしてみたり、就職活動らしいこともしました。でも、将来のイメージは見えてこなかった。確かなことは木彫が好きだということだけで、そのまま院に進みました。

美大生なら誰もが通る迷い道だと思います。ただ、通り過ぎてみると、大学を出た後の人生のアプローチの仕方は人それぞれだということが分かります。結果的に今はまったく別の仕事をしていますが、木彫で学んだことは日々生かされていますし、作家になりたい気持ちも消えたわけじゃない。仕事として成り立つ技を得て、それが後々、作家活動に繋がることもあると思うんです。

「だれかで終わるかもしれない」と危機感を覚えたことは?

院を修了後2年ぐらい、照明のメーカーでインハウスのデザイナーをしていたのですが、「このままではだれかで終わるな」と思いました。人生を変えようと、思い切って会社を辞めたんです。ちょうどその頃、手掛けていた案件でロートアイアンという鍛鉄工芸があることを知って。炉で鉄を熱し、鎚さばきで門扉や看板、オブジェなどの装飾を生み出すヨーロッパ生まれの職人技術なのですが、日本ではオーダーメイドできるような本格的な工房は少ない。つまり、業界が狭く、ライバルが少ない。それなら、可能性がある、自分なら絶対に良いものが作れるはずと、経験もないのに確信したんです。さすがにその時点では、一生それでやっていける自信まではなかったのですが、30歳で独立したければ、修行に少なくとも5〜6年。ならば、すぐに始めなければ間に合わないと、即決しました。

でも実際にやってみて、なぜ、工房や職人が少ないのかよく分かりましたよ。覚えることは山ほどあって、体もきついし、スピード感も重要。制作コストがかかるから、1ヶ月で20案件ぐらい、相当なペースで作らないと仕事として成り立たないんです。だから、そう簡単にはできない。他の人には真似できない。探り探り、できることは全部、後悔のないようにやってきた。その自信は揺るぎないです。

自分の弱点は?

すごい心配性なんですよ。3ヵ月先とか、ずっと先まで仕事が入っていないと心配で。決めたことも絶対やらないと、気がすまない。課題提出や納期などのスケジュールも、後ろから逆算して日々やるべきことをきっちり進めるタイプです。それは良いことなのですが、火がつくと周りが見えなくなってしまって。在学中は、旅行に誘われても断ってしまうくらい、制作に没頭していました。社会人になってもそれは変わらず、独立したばかりの頃はほとんど休みなしで。休むと罪悪感を感じてしまって、休めないんですよ。完全なワーカホリックですよね。

でも、そんな風に夢中になれることがあるのは、幸せです。夢中になれないことには、集中できないでしょう?物事を成すための1番の武器は、夢中になれる集中力です。

表現のために心がけていることは?

自分の感度を常にはっきりさせておくことです。好きか、嫌いか。好みじゃないなと思ったことは、自分ならどうするか? そういう考えから新しい表現が生まれます。

学部生の時に木彫の作風に悩んで、先生に相談したことがあるんです。好きなものをファイリングしてみなさいと、アドバイスをいただきました。最初はとにかく、いろんな作品を幅広く見ました。図書館も作品の宝庫だということに気づいて、彫刻関連の本だけでも、棚の端から端まで全部開いてみようと、通い詰めました。見抜く力が自然に身について、絶対的な強みになりましたね。それは、表現や作風を生み出す以前に大切なことです。表現したいことがあっても、感性がブレていたら、良い作品にはなりません。気がのらないことはやらないということではなくて、最初に感じた違和感をしっかり認識しておくことが大事です。目をつぶってしまうと慣れてしまいますから。たとえ巨匠の作品でも、心の中で白黒つけて、なぜそう思うのかを整理しておけば、いつしかそれが積み重なって感性の軸になりますから。

だれかで終わるな。