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中川邦彦教授・モロッコ文化プロジェクト報告

本学の中川邦彦教授(映画専攻領域)が2008年3月にモロッコで行ったプロジェクトの報告です。

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この3月末ラバトのモハメド5世王立大学社会科学研究所「市民の思考サークル」の招きで、モロッコのエルジャジーダで文化プロジェクトを行って来た。
これはこのサークルを主催する同大学の教授アブデルファタ・エジンが中心となって、オーストリアの美術家シニ・コレット、オマーンのメディア作家アブデルモニム・アルハッサニ、そしてわたしたちと現地の高校の生徒と美術教育を担当する画家アブデルカリム・エラザーと友人たちとで美術活動を通して「青少年に加えられる暴力と学校の役割」を視覚化し、名跡ポルトガル城址にあるギャラリーに展示する営みであった。


エルジャジーダ教育大学が運営に当たり、14歳から18歳、男女同数で合計20名の高校生は、モロッコ各地からエルジャジーダ近郊の町アズムールにある寄宿高校ウーム・エラビで学んでいる。

第一日。その美術室で学長、代議員の挨拶に継いでエジンがプロジェクトの趣旨を生徒に説明し、参加者全員の自己紹介ならびに各自の計画を説明した。生徒たちは全員、自己紹介とプロジェクトに参加した動機を説明した。そしてシニが生徒と、暴力を主題にデッサンをしながら会話をし、生徒たちの内面を表出する助けをした。エラザーは油彩画を描かせた。参加アーチスト一人を囲む生徒たちとの昼食を挟んで夕方までこの作業を続けた。

第二日はアルハッサニとわたしのプロジェクトで、アズムールのメディナに「暴力」を捜しに行き写真に撮った。道端に棄てられたごみ、「売り家」と壁書き棄てられた家、幼児の喧嘩、幼児労働などを4チームに別れて撮影した。メディナを出てウエドウーム河口まで歩き、暴力行為を演じ撮影した。帰りの市バスでは打ち解けて来た生徒たちが歌を披露した。

第三日。シニがデスマスクにならって顔に石工を浸した包帯を貼付けマスクを作りそれに色彩やコラージュをし、別のアイデンティティーを創作するプロジェクトをした。髪の毛に付着して剥がせないマスクと苦戦しながら生徒たちはマスクを飾るのに熱中した。わたしは二人の利き腕を紐で結び絵を描く「苦痛絵画」をした。最年長でいつも一番にプロジェクトをする仲良し女生徒が「犠牲」になった。「煩わしい」人間関係を局限化するプロジェクトが共にあることの喜びを見出すことを目指していると気づくには歳月が必要になる。

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こうしたプロジェクトの産物すべてを画廊に展示し、オープニングセレモニーには後援したモロッコ在オーストリア大使、日本大使、知事が出席し祝辞を述べた。生徒たちは自分の作品の前に立ち、大使たちや参列した親たちに自分で解説した。開催趣旨を述べたのも生徒であった。プロジェクトで呼びかけるまでが作家の仕事で、その成果を発表するのは子供たち、この基本姿勢が子供たちを一人前の市民として扱うサークルの活動を貫いている。そして生徒たちの意識も極めて高い。
暴力ゲームに加えた生徒のコメント:道端で酒を飲んで寝ている若者は家庭に恵まれず孤独で絶望している。それを理解せず動物のように虐待する者がいる。

参考ビデオレポート:「暴力ゲーム」、「苦痛絵画」

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