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TELE PLANT: インターネット接続した植物プラントの共同管理とグループウェアの設計


森岡 祥倫 システム設計・ハードウェア制作
大久保 誠 プログラミング

現在はハード/ソフト双方のシステムを改良・調整している段階。2009年の春から特定の授業科目ないし少人数の学生によるテスト・グループで試行的な運用を始める予定です。

■環境制御の学習経験

人は自然環境に何らかのかたちで働きかけを行うことで、みずからの生を維持していますが、そのことを日常生活において強く意識する機会はあまり多くありません。環境を無数のモノとその関係項の集合体としてとらえようとすると、複雑さやスケールの大きさに圧倒され、自然の超越性と個の限界にまつわる様々な想像力(=環境学習を持続するうえで判断停止を招くこともある)を働かせることはあっても、人の営みを内包する自然環境の再帰的な仕組みを、具体的に改善したり修復するためのアクションについてはとかく及び腰になるのです。 わたしたちが計画する遠隔操作の野菜プラント※は、その複雑で巨大な集合体に、操作対象となる小さな論理フレームを仮定し、内部で起きる/起こしうる環境情報の変化を、観測データとチューニング可能なパラメータのセットに還元することで、フレーム外からの行為(栽培)がもつ能動性を個々の行為者自身の推論過程と自省に差し戻そうとする、一種の倫理的な思考実験です。この限定的かつ背理的なゲームは、環境制御の新しい学習経験を参加者全員に等しくもたらすはずです。

※実時間の視聴覚情報やデジタル・データだけを頼りに遠隔地から不可触の事物の状況を変化させるテレ・プレゼンス。1990年代前半に、この技術を環境認識の問題として最初に取り上げたのは、カリフォルニア大学バークレー校のケン・ゴールドバーグKen Goldbergである。アルス・エレクトロニカ・センター(オーストリア、リンツ)他と共同で、不特定の参加者がインターネットを通じて3軸のロボット・アームを操作し、数種類の植物を栽培するインスタレーション作品「The Telegarden」(1995-2004)を制作した。 情報科学史上の位置づけとしては、情報空間へのアクチュアリティのみを強調する1970〜80年代の仮想現実(Virtual Reality)から、存在論的な現実環境を主体に置きつつVR によってアノテーションを重畳する今日の拡張現実(Augmented Reality )への、橋渡し的な役割を担う研究とみることができる。草花の栽培に参加する人々は、非可逆的かつ帰一の指向対象(植物の生育)に、VRを介していわば倫理的な債務を担うことになる。

Ken Goldberg (ed.) The Robot in the Garden; Telerobotics and Telepistemology in the Age of the Internet, 2000, MIT Press. ※VRからARへの転換期を形成した研究者とアーティストの主要論文集成


■栽培管理のグループウェア

1)携帯電話によって実時間で知る気温・湿度データ、2)自らの操作=栽培履歴、3)操作履歴に関する栽培者どうしの通報…植物の育成状態は、質の異なるこれら3種類の情報と、園芸についての一般的な知識から推しはかるしかありません。システムへのアクセス頻度や操作内容に関するログをとることはできますが、栽培者には知らされません(記録を自ら残し全員で集約・共有するしかない)。また、この実験にとっては何の意味も持たないばかりか、フレームに揺らぎを与えてしまうため、webカメラ等の画像情報は存在しません。温室自体も普段は遮光幕で覆われ内部を覗けなくする予定です。つまり、発芽すらしないまま全員で水をやり、温度管理を続け、無益にエネルギーを消耗する※という顛末さえありえるのです。予測と信頼のグループウェアを参加者全員が協議し設計すること、その課題をクリアしなければ栽培を開始することはできません。

※栽培に要した電力を逐次積算表示する機能を準備中。育成用照明は、省電力化のために現在の蛍光灯からLED(発光ダイオード)に交換の予定。植物の生育に必要な光の波長は、可視光の一部(400〜700nm)でよく、これに紫外線灯を加えることでビタミンCの含有率増加が見込まれる、パルス点灯の方が成長を促す、などといった研究報告もある。食用植物のインナー・プラントは、現在のところ都市部における土地活用のモデル提案として、採算ベース前後の小規模実験が各地で行われている。しかし、LEDの輝度は近年飛躍的に向上しており、ソーラーパネルのエネルギー変換効率と製造コストにブレークスルーが訪れたときには、日本の伝統農法ともいえるハウス栽培の高度な管理技術を継承するかたちで、低消費電力・低コストの高輝度LEDとの組み合わせによる自動化プラントが、農業従事者の高齢化が進む地方都市の近郊農家を中心に広まる可能性があるとみられている。

■自然の消費

育てる植物の種類は全員にあらかじめ知らされます。ただし、柑橘類のように虫媒や風媒によって結実するものは含まず、レタスやホウレン草など、中間の手入れが省けて蒔種から収穫までの期間が短い、比較的容易に栽培できる数種の葉もの野菜を選びます。
そしてついにその時がやってきます。携帯電話の電源を切り、サーバを停止させ、全員が集って温室の窓を開き、内部を自分の目で確かめ、そこにあるはずのモノを調理して食す〈サラダ・パーティ〉。では、収穫の日、楽しいパーティの開催日を予定するための決定論的な情報は、いったい誰から教示されるのか、いや、それはどこに生じるのか? 「自然の消費」という文明の矛盾そのものを対偶命題として体現するわたしたちの実験にあって、求めるべき解はまさしくその日付であるといえます。これはブラックボックスではなく、開く日を決定するための方法を探す Biosphere2※なのです。

※Biosphere2 第二の生物圏。アメリカ合衆国アリゾナ砂漠に建設された完全密閉の人工生態系。外部からは太陽光しか入ってこない。未来の定住型宇宙開発(スペース・コロニー)おいて、人間と動植物の生存を長期に維持するエネルギー・システムや循環型の食糧供給が可能かどうかを調査するため、数十年単位の長期プロジェクトとして1991年に開始したが、技術的な欠陥が見つかるなどしてわずか2年で中止、1994年一時的に再開したものの現在は環境教育のための施設として利用されている。

■システム・ブロック図と携帯電話での表示例

システム・ブロック図   携帯電話上の表示

■通信・制御部の構成

通信制御部写真 ●積算電力計 栽培に要した総電力量を計測する(将来対応)
●電源 家庭用電源から通信と制御に必要な直流電源を得る
●スイッチングHUB マイクロコントローラとLANを接続する
●マイクロコントローラ ネットワークと各種センサ/アクチュエータを結ぶ
●ソリッドステートリレー ポンプなどの交流駆動装置に電力を供給する
●出力インジケータ 制御の状態をランプで知らせる
●肥料混合フラスコ 液体肥料の調製を行う(将来対応)
●水タンク ポンプの吸引で温室内の植物に水を与える


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